INTRODUCTION

悲しみから救ってくれたのは、
夫が愛した男性だった―
哀愁漂うエルサレムを舞台に、国籍や文化、
宗教や性差を超えて
めぐり逢う男女の人間賛歌。

無名の若手イスラエル人監督 オフィル・ラウル・グレイツァが手がけた本作は、低予算映画ながらもカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でワールドプレミアされるやいなや、観客から総立ちの拍手喝采で絶賛され、エキュメニカル審査員賞を受賞する快挙を成し遂げた。主人公は【恋人】を不慮の事故で失ったドイツ人のトーマスと、【夫】を亡くし女手ひとつで息子を育てるイスラエル人のアナト。【同じ男性】を愛し、同じ絶望と喪失感を抱えるふたりは、哀愁漂うエルサレムでめぐり逢い、運命的に惹かれ合っていく―。
悲しみに暮れる男女を繊細に描いたエモーショナルなドラマは、ケーキ作りを通して宗教的慣習の違いをあぶり出し、食べること、生きること、そして愛することを浮き彫りにしていく。静かな感動を呼ぶ美しいラストは、国籍や文化、宗教やセクシュアリティといった違いを超越し、単純なラブストーリーの枠に収まらない壮大な人間讃歌として、見るものの心を揺さぶるはずだ。

ドイツの無名俳優とイスラエルの人気女優が
孤独と悲しみを背負う主人公を繊細に演じる

ケーキ職人のトーマスを演じたのは、本作で2018年 ヴァラエティ紙が選ぶ「観るべき10人のヨーロッパの俳優たち」に選ばれたティム・カルクオフ。ドイツで2010年にデビューしたまだ無名の俳優だが、監督はトーマス役の俳優選びに難航していたときにネットで彼のことを知りオーディション。明らかな才能を感じて主役に抜擢した。様々な感情を内に秘める、孤独なトーマスの複雑さを見事にすくい上げている。
アナトを演じたサラ・アドラーは、フランス生まれのイスラエル人で、イスラエルではよく知られた人気女優。ニューヨークで演技を勉強し、ジャン=リュック・ゴダール監督の『アワーミュージック』(04)やソフィア・コッポラ監督の『マリー・アントワネット』(06)などに出演。2004年からはイスラエル映画にも積極的に出演し、『ジェリーフィッシュ』(07)ではオフィール賞(イスラエル・アカデミー賞)主演女優賞を受賞した。最近の出演作品にアモス・ギタイ監督の『ツィリ』(原題/14)やサミュエル・マオズ監督最新作『運命は踊る』(17)などがある。6年前から彼女と一緒に仕事をしたいと思っていた監督は、インスピレーションをもらうために画像をデスクトップに保存していたほど。夫を失った妻としての悲しみ、息子を懸命に育てる母としての強さ、トーマスに惹かれていくひとりの女性としての喜びなど、多面的な魅力を放つ美しきアナトを繊細に体現している。